カリ・ハンス・コモネン(フィンランド)、境真理子(日)
モデレーター:水越伸(日)

デジタルで変わるのか、あるいは変えるのか

科学コミュニケーションが専門の境氏はネットワーク社会を生活者一人一人により身近に感じさせる自らのミュージアムでの活動を報告。展示中心の従来型ではなく「触れる地球」など見えないものを見て触れさせる体感理解型の実例を示した。またデジタル化によって誰もがコンテンツの制作、編集、発信が可能になったと説明。実例として「Live Universe」という世界の天文現象を題材に番組制作、ライブ配信する団体を挙げた。専門分野の境界を越えた「統合」も進んでいる。境氏が挙げた数々の具体例に対しコモネン氏はデジタルネットワーク社会の基本的な概念を解説。デジタルの登場で変化を遂げる社会そのものを根本から見直す必要があるとした。進行を統括する水越氏はデジタルネットワーク化が進む社会でこれからのデザインが果たす役割とは何かという課題を投げかけ、さらに統合、再構築されるシームレスな社会においてデザイナ−といういわば専門家が専門分野のみで問題解決する時代ではないと説いた。水越氏の「挑発的な」問いかけ。聴講したデザイナーやその卵たちにとっては刺激的なセッションとなったであろう。

ステファン・サグマイスター(米)

Yes, そこに心からのメッセージがあれば

グラフィックデザインは、果たして人を感動させられるか。答えはイエスである。ただし、そこに含まれたメッセージが単なる方法論ではなく、心から出た場合に限ってと氏は語る。氏は心の柔らかな人である。驚くほど感動を重ねている人である。6才のとき初めて心を動かされた絵本を明確に覚えている。地下鉄広告に仕立てられたポジティブなサインに喜びを感じている。ドミノのように事物の流れを描写した映像に好奇心を満たされている。氏が感銘を受けてきた作品を見るにつれ、これほどまで他者の想いに敏感な氏だからこそ、デザインという分野で純真な感動を紡ぎ出せるのではないかとの印象を受けた。氏の人間的な優しさやユーモアがにじむ心地よい講演であった。(吉)

[ライター] 池端宏介/是方法光/坂本順子/紫牟田伸子/長谷川直子/久永理/武藤櫻子/吉岡奈穂/Maggie Hohle/Brian Palmer, Jacque Lange(ICOGRADA)/Nicole Rechia/Trysh Wahlig/Gitte Waldman/Robert Zolna
[撮影] 浅井美光/勝田安彦/水谷文彦