バランスの美学
生命は神に吹き込まれるものでも、物質でもない。ゲノムを見ることにより、生命を情報としてみる時代になった。ここ最近の話である。生命の中で選択圧のようなものが働き、情報がコントロールされ、複製される。情報を掴み、編集することを生業にするデザイナーとの類似項は多い。一見、接点がないように見える「生命科学とデザイン」は、多くの関係性を共有しているのだ。
「生命は、異なるものと共生することによって、可能性を広げてきた」とゆったりした口調で語るのは伊藤氏。ここで、佐倉氏が1つの学説を引用。DNAが複製される際、正確にコピーされる回路とミスが多い回路の2パターンがあるというのだ。しかしそれゆえに、人はうまく進化できたのではないかと。2回路の共生こそ、適度な多様性を生み、生命を動かす原動力になっているのだ。「このように、生命が絶妙のバランスをもって情報をコントロールすることが美なのでは」という佐倉氏。デザインに関しても、全体を統一的に俯瞰し、問題を統合していく。つまり「デザインをデザインする」ということに美しさがあり、現在問われていることでもあるのだ。(是)
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