胸躍らせる鼓と笛の音で幕が開けた。

まっさらなコングレスキットを手にした参加者たちがホールに集う。15時10分すべてのプログラムに先がけてセレモニーがはじまった。演目は日本が誇る世界無形遺産である能の名作「道成寺(どうじょうじ)」の演奏。暗がりのステージには衣装をまとった小鼓、大鼓、太鼓、笛の4人演奏家が列座。客席からはフラッシュがたかれる。各鼓のソロに絡まるように笛の音が高らかに響く。「いよぉ〜」「おぉ〜」と発せられる迫力ある歌声。やがて演奏は軽やかにテンポを早め、リズミカルな4人の重奏でクライマックスを迎えた。これからはじまろうとするクリエイティブな会議への胸の高鳴りを誘うものだった。囃子方たちの終始前を直視するその姿は凛々しく堂々たるものだった。演奏後舞台に立った司会の残間里江子氏によれば、今回の演目は各囃子の特徴ある部分を活かして誰もが楽しめるようにアレンジされたものだという。(池)

はじめよう、VISUALOGUE。

来賓や主催者など各列席者からの挨拶があった。主催者の一人因田義男氏はSARS騒動などの不測の事態などがあった中、多くの人の協力を得て会議開催に至ったと述べ、デザインに関わる、情報、環境、生活文化、企業戦略などあらゆることがここデザイン都市名古屋からますます情報発信されていくことに期待を寄せていると結んだ。ロバート・ピータースICOGRADA会長は今回の会議の核心が「理解のためのデザイン」にあると述べた。その後今年で40周年を迎えるICOGRADAの歴史を振り返る映像が映し出された。氏はステージ上の席からデジカメで客席を撮るなどお茶目な一面も披露。そして16時ちょうど福田繁雄実行委員長が声高に開会を宣言。「NAGOYAの会議の風」を吹かせようと意気込んでいた。ステージ上には鮮やかな赤白の「VISUALOGUE」のロゴが登場した。(池)

杉浦康平(日)

視覚化される2つの太鼓

 建鼓(けんこ)と火焔太鼓。古代アジアより伝えられるこの2つの太鼓の謎を紐解くという興味深いテーマでVISUALOGUEは幕を開けた。
 中国・韓国で数千年の歴史を持つ建鼓に隠された3つの意味。氏はスライドに流される資料映像とリンクさせながら解説する。建鼓の最大の特徴は、一本の柱に胴を貫かれ空中に留められたその姿。心柱は天上界、空中界、地上界・地下界を貫き、天と地を結ぶ建木=宇宙樹とされている。数メートルに及ぶ心柱の一番上には一羽の鳳凰が構える。鳳凰は太陽や雷を表すとされ、鳴り響く太鼓の音と同じ、外に向かって広がるものの象徴とされた。生命樹としての建鼓の存在である。そして建鼓が持つ3番目の意味が宇宙山。大自然のざわめき、混沌の象徴、崑崙山が太鼓全体で表されている。建鼓は1つで多様な意味性を有しているのだと氏は分析する。
 一方、日本の火焔太鼓は、建鼓と全く違う概念を持つ。それが「二而不二(にふふに)」=「二にして、二ならず」である。火焔太鼓は左方と右方の2つが対を成すことで成り立っている。陽を表す左方には日輪・時計回りの三つ巴・火(赤)・奇数が、陰を表す右方には月輪・反時計回りの二つ巴・水(青)・偶数が描かれている。2つが揃わないと整わない陰陽原理に基づく、見事なまでに対比されたデザイン。この二而不二は火焔太鼓のみに示された概念ではない。左京と右京から成る平安京は二而不二の都市だ。金剛界と胎蔵界から成る両界曼陀羅や、人間の身体もこの概念が組み込まれている。火焔太鼓は、広く認められていた二而不二の大原理を、太鼓の響きとともに聴く者に悟らせる楽器だったのである。
 アジアに誕生したこの2つの楽器は、決して打撃音を響かせるためだけの道具ではない。それ以上に視覚的な効果でわれわれに大きな世界観や思想を伝えている。大自然のざわめきを伝える、一見乱暴に見えるこれらアジアのカタチこそ、現代に「デザインとはなにか」という問いに対するひとつの答えとなるのではないか。氏は聴衆で埋め尽くされた会場で静かにそうしめくくった。(久)


[ライター] 池端宏介/是方法光/坂本順子/紫牟田伸子/長谷川直子/久永理/武藤櫻子/吉岡奈穂/Maggie Hohle/Nicole Rechia/Trysh Wahlig/Gitte Waldman/Robert Zolna
[撮影] 浅井美光/勝田安彦/水谷文彦