前田ジョン(米)

反応する鉛筆、折れるコンピュータ

コンピュータは人間の入力するコマンドに対して、2種類の反応を見せる。結果が見えるものと結果が見えないもの。われわれが画面を通して見ているものは、コンピュータが行うわずかな部分だけである。その裏に隠されたプロセスを知れば、コンピュータは限りない可能性を示してくれる。氏の実家は豆腐屋。氏はその作り方を学ぶことによって、プロセスの重要性を体得したのかもしれない。
氏の作品にはユーモアがあふれている。マイクに吹きかける息に反応して回る風車。マウスに合わせて日付の花火が上がるカレンダー。すべてが“Reactive”である。その意味において、コンピュータはただの鉛筆ではない。しかし、氏はコンピュータをすぐに折れる鉛筆だとも揶揄する。理不尽なフリーズやバグは、コンピュータを使う誰もがきっと経験したであろう。
今回の講演のすべてを日本語で行った氏。氏の不安とは裏腹に、会場は何度となく巧みなジョークによって笑いに包まれた。中でも、氏が作成したCD-ROMトレイを開く際の衝撃度を計測する装置の映像が映されると、大きな笑い声が起こった。氏のアイデアは、日常の中での発見に基づくもの。そんな氏が、われわれに成功の秘訣をアドバイスしてくれた。「普通の人でいてください」と。(久)
氏が本イベントのために特別に制作したサイト
http://test.opat.net/visualogue/は10月13日までアクセス可能。

アーマンド・メーフィス(蘭)

デザイナーの強い残り香 アイデンティティ

服に付いているタグ。もし何も記されていなければ、何を思うだろう。メーフィス氏は、ここに1つのアイデンティティの形をみる。そこには、デザイナーのブランドに対する強烈なアンチテーゼが内包されている。つまり真っ白なタグの使用が、デザイナーの態度表明になり、アイデンティティになるのだ。「許可なしに公共空間にポスターを貼り、スペースを占拠することも、セックスピストルズの反政府的なメッセージも、広い意味でのアイデンティティになりうる」と氏は続ける。
次に自作品を紹介。アイデンティティを模索した事例に多くの閃光がたかれた。その中でも目を引いたのが、独特な会社案内。オランダでは英語も公用語のため、会社案内は2種類必要。同じフォーマットで2冊作るのが通例だが、氏は相棒のデュールセン氏と分担で作業。全く違う個性の2人が作るので、2つのアイデンティティをもつ会社案内が出来上がる。少しの遊び心を持って、視点を変えることによりアイデンティティは表出するのだ。氏は最後にこう締める。「恵比寿のマジックが置いてあるトイレに行って、落書きしてみたいね。」そうなのだ、アイデンティティはこんな所にも表れ、同時に新しいコミュニケーションの可能性も隠されているのである。(是)

[ライター] 池端宏介/是方法光/坂本順子/紫牟田伸子/長谷川直子/久永理/武藤櫻子/吉岡奈穂/Maggie Hohle/Brian Palmer, Jacque Lange(ICOGRADA)/Nicole Rechia/Trysh Wahlig/Gitte Waldman/Robert Zolna
[撮影] 浅井美光/勝田安彦/水谷文彦