西田龍雄(日)、浅葉克己(日)

文字は言葉のコスチューム

開場前から、両氏の話を聞こうと長蛇の列ができ、場内はすぐ満員となった。「真面目な話をしようとして興奮しています」と浅葉氏の冗談に会場は湧き、講演はスタートした。
文字は洞窟や岩壁に描いた岩画から始まり、象形文字を経て、今使われている文字へと移り変わっていった。文字は時間や空間を超越して、物事を伝達するという力を持っている。しかしながら、文字自身が力を持っているというわけではない。人間が持つ言語能力、言葉が乗り移って初めて文字が力を持つ。つまり、文字は言葉のコスチュームなのであると西田氏は言う。
文字には3つの側面がある。1つは書かれた表面的な物としての文字。2つは言語学的な意味を持つ文字。3つ目は芸術的な想像意欲をかき立てる文字である。3つ目の側面がデザイナーにとっては最も注目すべき部分なのだ。クリエイティブとは「集中して、接触して、摩擦して、離脱する」ものである。「自分の気に入った文字を深く掘り下げ、諦めずに、新しい文字の顔を生み出すようなデザインを作って欲しい」と浅葉氏は会場で目を輝かせる若きデザイナー達にエールを送った。(櫻)

R・K・ジョシー(印)、エスター・リウ(香)

動き続けるアジアの文字

会場のスクリーンに映し出されたサンスクリット語の一文字。文字の意味を知らないことで、より効果的に文字のカタチの美しさが際立っていた。
サンスクリット語の重要な要素は音。息をはきながら母音と子音を組み合わせ、複雑な音が作られる。行間の間や音のニュアンスが正確に伝えられ、祈りや宗教の内容が何世代も受け継がれていくのである。ジョシー氏は以下の詩を朗読し、スピーチを締めくくった。
「私の左には 子音があり 私の右には 母音がある ここに座り 私はそれをあわせ 言葉にする」。
一方、中国のタイポグラフィを研究するリウ氏。中国では1950年代に、文字をより簡単に読みやすくするため、約7万語を約6千語にするという文字の簡略化が行われた。その際、宋書体が用いられ、中国の文字を宋書体で統一するというタイポグラファーとして偉業を成し遂げた人々は、当時の中国で評価されることはなかった。しかしながら、テクノロジーが進んだ今、中国では次世代のタイプフェイスを作り出そうとする動きがみられている。中国でもタイポグラファーが認められる日が近づいてきているのだ。
伝達手段としての文字。簡略化で元来の意味を失った文字。次世代へ正確に受け継がれる文字。文字を使い続ける人間がいる限り、文字は動き続けるのである。(櫻)

[ライター] 池端宏介/是方法光/坂本順子/紫牟田伸子/長谷川直子/久永理/武藤櫻子/吉岡奈穂/Helmut Langer/Maggie Hohle/Nicole Rechia/Trysh Wahlig/Gitte Waldman/Robert Zolna
[撮影] 浅井美光/勝田安彦/水谷文彦