隈研吾(日)、妹島和世(日)

形を消した建築、現象としての建築

グラフィックデザイナーが多数を占める今回のVISUALOGUEの中で、建築家の対談はそれだけで興味深いものであった。まず、隈氏は「建築を消す」という独創的な試みについて語った。たとえばサイバーグラスで森を眺め、実際の森から情報を受取る建築。山の頂上をカットし、トンネルを埋込んだ建築。いわば雄的でなく、雌的な建築。それらを模索しているうちに氏は、「形は消せるけれど物質は消せない」という結論を導きだした。そしてそれこそが、コンピュータ社会の中で可能な建築のアドバンテージではないかと。その結果、竹の家や土壁の美術館など、物質性に明確に焦点が絞り込まれた素晴らしい建築を氏は創りあげた。
一方、妹島氏も形よりも重要なことがあると語る。それは建築が生まれる場所であり、作られる状況であり、すべてを含めた現象であると。氏がオランダで進行中の湖上の劇場とカルチャーセンターは、小さな部屋が平行に存在し、景色がいくつも重なって大きな建築になるような手法が取られ、まさに場所性や現象的要素が面白く絡まっている。と同時に氏は、場所の影響を受けながらも、場所に縛られず自由でいたいとまとめた。一般的な建築の概念がくつがえされる新鮮な講演であった。(吉)

ネヴィル・ブロディ(英)

あなたは「創造」してますか?

規則にとらわれない、既成のルールを破る。クリエイティブが語られる際に必ずと言っていいほど耳にするこれらの言葉。しかし、その「ルールを破ること」自体がすでにパターン化していると氏は警鐘を鳴らす。情報が氾濫し、限りない可能性を持つかのように思える今日の世界。しかしそれによって自由な創造は単なる選択に置き換えられてしまった。すべてが交換可能な世界で、われわれはリスクを負うという創造性の原点そのものを失ってしまっている。
ではどうしたらいいのか。その問いに対して、わからないと氏は言う。もしその答えが誰かによって提示され、われわれがそれを受け入れたとしたら、それこそが究極的にパターン化された世界にほかならない。ただ氏は、今あるものを壊さなければなにも変わらない、ということは断言した。そこから先は、あなたの勇気が扉を開くことになるだろう。(久)

クリストファー・マウント(米)、永井一正(日)、横尾忠則(日)、青葉益輝(日)

いま見ても新鮮な、巨匠たちのデザイン

錚々(そうそう)たるメンバーだ。左から、颯爽とした横尾氏、微笑みを浮かべた永井氏、日本のポスターに詳しいというマウント氏、キリッとした眼差しの青葉氏の順に並んだ。青葉氏が司会となり、亀倉雄策、田中一光、早川良雄ら日本のポスターの歴史を支えてきたデザイナーから、スピーカーの3氏、そしてサイトウマコト氏まで13名のアートディレクターの作品を解説を交えながら紹介した。フレームいっぱいの日の丸に、日本のポスターの幕開けというフレーズがだぶる亀倉氏の東京オリンピックのポスターについては、永井氏の解説にも力が入る。日本のデザインのクオリティが世界に示された時でもあり、かつ、オリンピックという国家イベントによって日本は再生し、高度成長期に突入した。その象徴がこのポスターなのだと。そして、日本の伝統を世界に伝えた田中氏の観世能のポスター、●と▲と■だけで歌舞伎の艶っぽさを表したものが続く。早川氏のポスターに話が及ぶと、永井氏は興味深いことをいった。「彼は関西の象徴、ピカソの影響を受けている、そして関西の方がアートとデザインを区別しなかったかな」と。そういう永井氏も、関西出身である。
そして、ナマズと花をモチーフにした永井氏のポスター「JAPAN」が映し出された。横尾氏はこれを見た当時、「やっぱりな」と思ったという。かつて日本デザインセンターで上司と部下の関係だった時、ある仕事のラフ案で、上司の永井氏は気味の悪い羊の絵を描いた。でも、なんか惹きつけられた、あの時と同じ印象を持ったよと。
とはいうものの、横尾氏の作品は異様さでは上をいくのでは? マウント氏はこの顔だらけの不気味なポスターが大好きで、部屋に貼ってましたと目を輝かせた。その他は勝井三雄、福田繁雄、K2、松永真、佐藤晃一、戸田寿と、日本の優れたポスターを連綿と継承していった彼らの代表作が並んだ。最後に永井氏はポスターは廃れない、そして青葉氏はこの会議で得た何かを世界の平和へとつなげようと締めくくった。(坂)

サイトウマコト(日)

これでもくらえっ!のデザイン魂

経営者と時代のリンクの仕方で、その時代のデザインが決まる。しかし、時代に迎合してデザインをすることはデザイナーとして死を意味する。迎合しているフリをして、すきがあれば自分の表現をぶつけるという諦めない人間が次の時代を作るのだ。
どう思われてもいい。一体自分がどこまでできるのか。これでもくらえっ!とういう気持ちでデザインをしていたからこそ、世界に認められるようになったと氏は言う。
しかし今、氏の情熱は薄らいでいる。コミュニケーションツールが増え、ポスターなどの需要が減ったこともその要因だ。建築やプロダクトデザインなど多方面に視野を広げ、一見遠回りに見えたとしても、冷静に自分の立場を見据えた上で、また命がけでやれるもの、そのきっかけとなるものを見つけていきたいと氏はくくった。
再び氏に、情熱的にやりたいという気持ちが生まれた時、一体どんな作品を私達に見せてくれるのであろうか。心から楽しみである。(櫻)

[ライター] 池端宏介/是方法光/坂本順子/紫牟田伸子/長谷川直子/久永理/武藤櫻子/吉岡奈穂/Helmut Langer/Maggie Hohle/Nicole Rechia/Trysh Wahlig/Gitte Waldman/Robert Zolna
[撮影] 浅井美光/勝田安彦/水谷文彦