長谷川祐子(日)、タナカノリユキ(日)

自分自身を貫くアイデンティティ

インターネットなどのメディアの発達はプロとアマの垣根を低くし、アート活動の一メディアとして地位を確立。あるいはグラフィティやTシャツをメディアに表現する者もいる。メディアの多様性と情報の氾濫は現代アートに影響し複雑にした。アートはファッションのように消費され忘れ去られることから逃れなくてはならない文化だ。長谷川氏が紹介したアートクリエイタ−はメディアの特性を活かし、情報の選別と再構成を行い、各々の地理的・文化的アイデンティティを誇示していた。これはグラフィックデザインに照らし合わすことができる。個人のインプットの個性がアウトプットの独創性になるのだ。ディスカッションでは両氏から示唆に富む発言が出る。意識や情報を共有する場としてマスメディアのような一方的なメディアではなく、生の声が飛び交うコミュニティやフォーラムをもっと設け、クリエイタ−が自身のアイデンティティを確立し育つようにすることが重要と長谷川氏。またタナカ氏は溢れる情報の中から選別する力を育て、まだ情報化されていない自然物や現場レベルで感じ取れるものにヒントが隠されているのではないかと結んだ。自発的で能動的なクリエイタ−のスタンスが望まれる。(池)

マッシモ・ピティス(伊)

誰にでもわかる楽しい空間作り

「アスファルト」という言葉からどんなことを思い浮かべるであろうか。氏の手掛けた「アスファルト展」は11のパートに別れ、アスファルトの歴史、色、香りといったあらゆる側面から非常に興味深く切り取られていた。
デザインは白紙に制限を与えていくことであり、展覧会も同様に、空間に制限を与えていくことである。展覧会は空間を通した人とのコミュニケーション方法。だからこそ、誰にとっても理解しやすく単純なものでなければならない。「見たい。知りたい。空間を歩きたい。」と思わせ、そこにユーモアをプラスして、見る人を楽しませる空間をデザインしなくてはならないのだ。
最後に、デザイナーはデザインのことだけでなく、視野を広げて「知る」ことが必要なのだとくくった。(櫻)

セシル・バリオ(OHIM)、伊藤宏幸(日)、奥冨宏(WIPO)

「デザイナーをサポートする」ための法律の話

会場には特許庁から伊藤氏、世界の特許庁といえるWIPOから奥富氏、そしてヨーロッパ共同体の特許庁といえるOHIMからバリオ氏が登場。「デザインによる効果は経済的な価値であり、法律で守られるべき」という概念から発した意匠権等の制度は、日本では明治時代、ヨーロッパにおいては19世紀末から整備が始められたそう。EUでは今年1月から新たなRegistered Community Design Regulation がスタートし、WIPOが管理するマドリット協定には来年、アメリカが加盟するなど、近年、国際的プロトコルに大きな動きがあり、自国外での権利保護の可能性が広がったという。タイムリーなこのセッションの客席には、国際的大物デザイナーの姿も。そう、デザイナーとしてビッグになればなるほど必要な知識なのだ。(長)

[ライター] 池端宏介/是方法光/坂本順子/紫牟田伸子/長谷川直子/久永理/武藤櫻子/吉岡菜穂/Maggie Hohle/Helmut Langer/Nicole Rechia/Andreas Schneider/Trysh Wahlig/Gitte Waldman/Robert Zolna
[撮影] 浅井美光/勝田安彦/水谷文彦